市街地で住宅を計画する場合、道路斜線制限がかかる場合が多くあります。
ご要望の規模の建物を建てようとすると、この道路斜線制限により建物上部が斜めに削られた形になったりしますが、”天空率(てんくうりつ)による道路斜線の緩和”(平成15年施行)を使えば、斜めに削らなくてよくなり、設計の自由度がグーッと広がります。(検討の手間もグーッと増えますが・・・)
従来は、道路に面する側には道路斜線の高さ制限が一律にかかっていましたが、 天空率緩和(空の見える割合)を利用することにより、 斜めに削られない形での計画も可能となります。
天空率とは、任意の測定ポイントに対して正射影投影(魚眼レンズで空を見上げたもの)された図(天空図)より、建物が投影されている範囲の除いた空間の割合(=空の見える割合)のことをいいます。空を見上げた時に、計画建物の影にならずに、空の見える割合にことです。
天空図は、測定ポイント(O)と建築物頂部を結んだ際に発生するPを垂直に投影面に描くことにより作図できます。最終的には、円(水平投影面)の面積から建築物投影面積を引いた割合で天空率を求めます。
まず、道路斜線制限内で敷地に計画できる最大の大きさの建物である《適合建築物》の天空率と、《計画建築物》の天空率をそれぞれ計算します。
《適合建築物》の天空率よりも《計画建築物》の天空率が上回っていれば、良いことになり、これを所定の測定ポイントで確認します。
(《適合建築物》とは、従来の高さ(斜線)制限を建物に置き換えたものとも言えます)
現在基本設計中の、『東京タワーと桜の見える家』は比較的広い敷地はでの計画ですが、それでも道路斜線制限がかかるため、天空率の緩和を使って上部が斜めに削られるのをさけて外観が四角い建物にしています。
上の図面は『東京タワーと桜の見える家』の天空図で、青色は西側道路(測定ポイント6ケ所)の天空率を比較したもの、茶色は南側道路(測定ポイント9ケ所)の天空率をそれぞれ比較したものです。測定ポイントは、測定線上に2m以下の間隔で任意に決めます。
3階建ての上部が斜めに削られることなく、スッキリした四角い建物になりました。
>>設計・工事経過 ブログカテゴリー 東京タワーと桜の見える家
↓実際の建物が完成した時の写真はこちらでもご覧いただけます。
>>東京タワーと桜の見える家 竣工写真1 外観
>>東京タワーと桜の見える家 竣工写真2 1階
>>東京タワーと桜の見える家 竣工写真3 2階
>>東京タワーと桜の見える家 竣工写真4 3階+屋上
写真は、天空率緩和を使い、四角い3階建て部分をできる限り道路側に寄せて建てた『室内化したテラスを持つ家』です。
写真左側は駐車スペースですが、この計画のように敷地の道路面の間口に対して建物の幅がゆとりを持って建つような計画の場合は、天空率緩和を使うことによる効果は大きくなります。
奥の白部分は2階建で、北側から高度斜線がかかりますが、天空率緩和を使って建物を道路側に寄せることで、高度斜線をクリアし、四角いボリュームとしています。
>>設計・工事経過 ブログカテゴリー 室内化したテラスを持つ家
↓実際の建物が完成した時の写真はこちらでもご覧いただけます。
>>室内化したテラスを持つ家 竣工写真 その1
>>室内化したテラスを持つ家 竣工写真 その2
>>室内化したテラスを持つ家 竣工写真 その3
写真は二方向の道路からかかる道路斜線を天空率緩和を使い、四角いすっきりした外観にした『独立した二世帯が集う家』です。
二方向の道路に面した建物には、それぞれの道路から道路斜線がかかりますが、天空率の検討もそれぞれの道路で検討します。
この敷地では手前の道路幅員は6mで、左側の道路幅員は4mです。二つの道路幅が違う場合、狭い道路側にも、広い幅員の道路斜線をかけることができる緩和規定がありますが、その範囲は広い道路幅の2倍、かつ、35m以内までとなっています。この敷地でも写真左奥には、狭い幅員(4m)の道路斜線がかかり手前(6m)よりも厳しい道路斜線がかかります。そこで、天空率緩和を使うと同時に、道路斜線制限の違いに合わせて手前と奥側で建物高さと仕上げ材を変えたボリュームとすることで、建物の外観デザインをまとめています。
>>設計・工事経過 ブログカテゴリー 独立した二世帯が集う家
↓実際の建物が完成した時の写真はこちらでもご覧いただけます。
>>独立した二世帯が集う家 竣工写真 その1
>>独立した二世帯が集う家 竣工写真 その2
>>独立した二世帯が集う家 竣工写真 その3
写真は、幅4mの前面道路から掛かる道路斜線を天空率緩和を使ってクリアした『囲んだテラスに開いた2階リビングの家』
この住宅はほぼ間口いっぱいに計画しているため、天空率緩和を使う効果は大きくはありませんが、それでも数センチの高さの違いが、計画を大きく左右するため、天空率緩和を使って道路側を最大限の高さとした事例です。説明が難しいのですが、計画時には高さだけを検討するのではなく、高さと広さを同時平行で検討して最適解を探るという感覚です。
道路側の3階に設けた個室では、窓側の天井高さを1.9mと低くして傾斜屋根の軒先の高さを抑えつつ、室内側では傾斜天井を利用して部屋のボリュームを増やし、床面積以上の開放感を感じられる空間を実現しています。
>>これまでの設計・工事経過 囲んだテラスに開いた2階リビングの家
↓実際の建物が完成した時の写真はこちらでもご覧いただけます。
>>囲んだテラスに開いた2階リビングの家 竣工写真 その1
>>囲んだテラスに開いた2階リビングの家 竣工写真 その2
>>囲んだテラスに開いた2階リビングの家 竣工写真 その3
写真は狭小変形敷地に天空率緩和を使いながら計画した『千駄木の家』です。
敷地が変形していて建物の形状も複雑になるため、通常の道路斜線制限だけを使って計画しようとするとプランニングが破綻する可能性が高く、こういう敷地の場合にも天空率緩和はとても有効です。
天空率の緩和を上手に使えば、道路斜線が厳しい敷地でも建物の外観をスッキリとさせやすくなります。しかしそれ以上に、高さ制限と平面的な広がりは密接にリンクしているため、天空率の緩和を使いこなせばプランニングの可能性をぐっと広げることができることにもっと大きな意味があります。
ただ一方で、天空率の緩和の計算では、敷地が2つの道路に面していたり、道路が傾斜している場合など、計算条件の設定が複雑になり、検討には知識と時間を要することも事実です。
設計事務所アーキプレイスでは道路斜線の厳しい敷地でも、天空率の緩和などを利用し、敷地の可能性を最大限引き出し、建て主のご要望にできる限り応えるようにいています。
◼︎天空率(てんくうりつ)について詳しく知りたい方
>> まちづくりNPO 天空の会
>> 日本建築行政会議 天空率(法第 56 条)運用基準及び具体の審査に係る検討
【設計事務所アーキプレイスでの天空率緩和を使った事例】
室内化したテラスを持つ家、独立した二世帯が集う家、十字路に建つスキップハウス、カフェのある家、みんな集まる家、阿佐ヶ谷の家、神楽坂の家、5層なのに3階建ての家、東京タワーと桜の見える家、千駄木の家
>>設計事務所アーキプレイスの動画 You Tubeチャンネル archiplacejapan
設計に関するお問い合せ WEB面談を予約