木造2階建住宅の解体現場が投げかける恐ろしい現実

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木造住宅の耐久性について関心があり、劣化がどのような場所に、どのような状態で起こり、どのくらいで進行していくのか、設計や工事が劣化の進行に及ぼす実際の影響を知りたいと思っています。ネットで調べたり関連書籍を読んでみたりしますが、それ以上に実際に使われてきた住宅の解体現場を直接見ることが勉強になります。



少し前に木造2階建住宅の解体現場を見る機会がありました。平成3年(1991年)に完成し、築30年となる都内の建物です。

木材の劣化が、地面からの湿気や壁内結露によりどの程度進行しているのか興味がありましたが、基礎の高さが低かったにもかかわらず土台部分は意外に劣化は少ない状況でした。べた基礎の優位性もあったのだと思います。

一方、浴室(ユニットバス)のある北東角の柱は、2階では一部が腐り始めており、1階ではスカスカ状態で向こう側が見えるほど腐朽が進行していました。もちろん構造的な強度はゼロです。【写真】

原因は壁内に入った湿気を含んだ暖かい空気が、外気で冷えた外壁材の内側に到達して結露が発生し、それが木材の腐朽につながったものです。外壁にはグラスウール厚100mmの断熱材は入っていましたが、通気工法は採用されておらず、アスファルトルーフィングでせき止められた湿気は逃げ場がないため、乾く暇なく結露を繰り返すという状態が、毎年の冬の間ずーっと続いていたと思われます。



住宅設計の仕事をしていると、建物の耐久性に対しての意識を常に持っていなければいけません。住宅には、年月とともに性能を落とすことなく、安心して住み続けられる安全性耐久性が確保されているべきです。
建て主の側(購入者)にとってはもっと深刻で、35年のローンを払いきる前に建物の安全性が失われてしまう現実など受け入れらるものでもありません。強い地震がくれば建物は倒壊、場合によっては命さえ失いかねないなど、あってはなら無いことです。


ここで改めて最初の写真をご覧いただきたいのですが、、、、

正面の窓のある面に見える筋交いは、なんと窓によって分断されています。また、筋交いの土台や梁への取り付け位置も基準とは違っていい加減です。
さらに、右側の壁の筋交いも、配管工事をするために切断されています。
木造住宅を地震から守る上で要となる筋交いが、この家のコーナーではX方向Y方向ともに切断されて、構造上の役目をなんら果たしていなかったのです。そしてコーナーの柱も結露によって腐りはて、かろうじて建っているという極めて危険な状態だったと言えます。




なぜ、このような欠陥住宅ができてしまったのか整理してみると、この工事に関わった多くの人たちの、幾重にも重なった無責任な仕事によって、この建物ができたことが見えてきます。それは同時に、誰か一人でも最低限の責任感を持って仕事をしていれば、ここまでの危険な状態になることを少しは防ぐことができた可能性もあったということでもあるのですが。

1)大工さん  構造や筋交いについての最低限の知識も無いまま工事している。安全な建物を作るという意識・モラルに欠けている。

2)設備工事屋さん 配管工事のために筋交いの重要性を無視して切断している。(不備を指摘する現場監督も監理者もいないため、自分の工事さえ終われば、あとはどうでも良いという意識)

3)現場監督さん  工事の不備は見て見ぬ振りか。監督として安全な建物を作るという責任を放棄している。(工事全体を見る監督さんがいない現場だった可能性もある)

4)工事会社  設計施工だと思われるが、人の財産をあづかり、人の生命に関わる仕事をしているという最低限のモラルが無い。作る技術も無い。

5)現場監理者  そもそも第三者的な監理者はいなかったと思われる。(書類上いたとしても名義貸しで、一度も現場を見に来ていないと思われる)

5)役所     木造2階建(4号建築)なので確認申請では構造関係の審査は必要ないのでノーチェック。工事中の検査も完了検査も無し。(工事中の検査があったとしても、検査後に切断されてしまえば、完成した時には見えなくなっている)

 

この木造住宅は戦後間も無い時期にできたものではなく、たかだか30年前(1991)に完成した住宅ということも衝撃です。1991年というと、私も建築業界に入り、集合住宅やビルなどの設計監理の仕事をしていました。当時はこんな杜撰な工事が行われて木造住宅が作られているなど想像したこともありませんでした。杜撰な工事は、戦後間もない時期や1970年代の高度成長期、ずっと昔にあったとういぐらいの認識でいました。しかし、現実は違っていたようです。




>>関連ブログ2017.9.27 中間検査と鉄骨階段の設置 細長変形地の二世帯コートハウス

現在はどのような状況なのでしょうか。木造住宅では3階建になると、建築確認申請で構造の審査行われます。しかし、木造2階建は相変わらず構造審査はありません。木造3階建では、工事中の中間検査も行われるようになりました。しかし、木造2階建では工事中の中間検査はありません。工事中の中間検査があったとしても、その後に筋交いが切断された場合、誰がそれを正せるのでしょうか。誰もが責任を持って仕事をすれば問題のすべては解決されるのでしょうか。設計施工のすべて悪いわけではありませんが、工事監理者は役目を果たせているのでしょうか。

まずは、建築工事に携わる個々人が建築工事の責任の重大さを認識し、自分の家族がそこに住む思いで、安全な住まいを作ることが基本となります。しかし、それだけで、杜撰な工事を防止でき欠陥住宅がなくなると言い切れるのでしょうか。解体現場の恐ろしい現実を見た後から考え続けてきたのですが、残念ながら今は言い切ることは難しいと感じています。


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